Topics

⽔素と酸素から過酸化⽔素を安全に合成する触媒を開発

〜次世代のエネルギーである⽔素を利⽤した合成反応の開拓〜
ポイント
① 次世代のエネルギーである「⽔素」の新しい利⽤が求められている。
② ⽔素と酸素を爆発の危険性がほとんどない安全な混合⽐率で、⼀つのフラスコで効率よく過酸化⽔素を合成する触媒の開発に成功した。
③ 今回の成果をもとに、今後、次世代のエネルギーである「⽔素」を電⼦源とする新たな反応開発と、このような⽅法で合成した「過酸化⽔素」のさらなる利⽤に期待。

概要
九州⼤学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)/⼤学院⼯学研究院の⼩江誠司(おごうせいじ)主幹教授らの研究グループは、三菱ガス化学株式会社との共同研究により、⽔素の合成や分解を担う天然ヒドロゲナーゼ酵素の機能をヒントに新しい触媒を開発しました。今回開発した触媒を⽤いることで、爆発の危険性がほとんどない⽔素と酸素の混合⽐率で、⼀つの容器で効率的に過酸化⽔素を合成することができます。この触媒の性能は、これまで報告された均⼀系触媒で世界最⾼値を⽰します。本研究は、ヒドロゲナーゼ酵素の機能を模倣することで新たな分⼦触媒を開発できたという学術的な価値だけでなく、次世代のエネルギーである⽔素を利⽤した新たな合成反応の基盤となる成果となります。本研究成果は、アメリカ学術雑誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版で令和5年2⽉17 ⽇(⾦)に公開されました。

小江主幹教授からひとこと
天然のヒドロゲナーゼ酵素の機能をヒントに新しい触媒を開発しました。開発した触媒に水素と酸素を入れるだけで、過酸化水素を作り出すことができます。

プレスリリース資料はこちらから





好熱性シアノバクテリアから新規多量体構造の光捕集色素タンパク質を発見



 



  シアノバクテリアなどの水中光合成生物は効率的に光エネルギーを化学エネルギーに変換するためにフィコビリソームと呼ばれる巨大な光捕集アンテナ色素タンパク質の複合体を有しています。フィコビリソームを構成する複数種の色素タンパク質は構造が明らかにされており、いずれの構造も3量体が重なったドーナツ型6量体であることが、いわばこれまでの常識でした。




 本研究では、阿蘇くじゅう国立公園内の温泉から新規に単離した好熱性シアノバクテリアの一種Thermoleptolyngbya sp. O-77から色素タンパク質フィコシアニンを精製し、X線結晶構造解析及びクライオ電子顕微鏡単粒子解析によって構造を明らかにしたところ、従来知られていた6量体のほかに、4量体が重なったドーナツ型8量体も存在するということを世界で初めて見出しました(参考図)。同一の組成を有する単量体ユニットが異なる多量体構造をとることは極めて珍しく、タンパク質の機能的・進化的観点からも興味深い研究成果です。また、8量体結晶は直径10 nmに及ぶ特異的な巨大空間を有しており、優れた触媒や吸着剤として利用できることも示唆されました。色素タンパク質の新しい形成メカニズムの提示やこれまでに知られていなかった8量体の構造的知見により、本研究は今後、フィコビリソームの形成プロセスやシアノバクテリアの光捕集におけるエネルギー移動機構の解明、さらには高効率な人工光合成システムの開発に役立つことが期待されます。

 


 本研究は九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の尹基石准教授と湊拓生博士 (現広島大学助教)の研究グループ、同大学大学院農学研究院の角田佳充教授と寺本岳大助教の研究グループ、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の千田俊哉教授と安達成彦特任准教授の研究グループとの共同研究により、九州大学大学改革活性化制度や日本医療研究開発機構の創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(JP21am0101071)などの支援を受けて実施されました。



 本成果は令和3年10月29日(金)(日本時間)に英国の学術誌『Communications Biology』にオンライン掲載されました。(DOI: 10.1038/s42003-021-02767-x)



研究者からひとこと:

 私たちは当初本研究とは異なる別の目的でフィコシアニンを単離していました。フィコシアニンの構造は既に広く知られていましたが、研究の過程で私たちのサンプルも一応結晶化を試み構造を確認したところ、予期せず新しい多量体構造の発見に繋がりました。想定外の結果が新発見に結び付くことは頻繁には味わえない研究の醍醐味でもあるため、本成果を発表でき大変嬉しく思います。



プレスリリースHP







1つの触媒で3つの水素利用:燃料電池、水素製造、水素化

~次世代のエネルギーである水素を効率よく利用する道の開拓~


 



  九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/大学院工学研究院の小江誠司(おごうせいじ)主幹教授らの研究グループは、熊本大学の研究グループとの共同研究により、水素の合成や分解を担う3種類の天然ヒドロゲナーゼ酵素の構造をヒントに1つの新しい触媒を開発しました。今回開発した触媒は、同じ分子式で構造だけが異なる3種類の異性体によって、3種類のヒドロゲナーゼ酵素のように(1)燃料電池の水素電極の触媒(2)水素製造の触媒(3)化学工業の水素化の触媒として働くことを発見しました。本研究成果は、これまで不明であったヒドロゲナーゼ酵素の触媒反応と触媒の分子構造との関係を解き明かすことで、次世代のエネルギー源である水素を効率よく利用する道を開きました。



 本研究成果は、アメリカ学術雑誌『Science Advances』オンライン版で令和2年6月11日(木)午前3時(日本時間)に公開される予定です。



 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「電子貯蔵触媒技術による新プロセスの構築」(課題番号:JPMJCR18R2)と文部科学省科学研究費補助金 特別推進研究「ヒドロゲナーゼと光合成の融合によるエネルギー変換サイクルの創成」(課題番号:JP26000008)の研究の一環として、九州大学の小江誠司主幹教授の研究グループが、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)(所長 ペトロス・ソフロニス)、大学院工学研究院、小分子エネルギーセンター(センター長 小江誠司)および福岡市産学連携交流センターで行ったものです。



研究者からひとこと:

 天然の3種類のヒドロゲナーゼ酵素の構造をヒントに1つの新しい触媒を開発しました。これまで絡み合っていた3色の糸(3種類の触媒)を解きほぐしました。



プレスリリース資料

アーカイブ | RSS |